とんちゃんといっしょ

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(後日談)保育園にChaos Engineeringを提案した話

先日、うちの子供が通う保育園から、うちの子供に対するインシデントの報告を受け、今後の対策として保育園にChaos Engineeringを提案するという我ながら変なことをしてきたのですが、その後正式なインシデントレポートと対応策の報告を受けたので書きます。

ことの発端はこちらの記事をお読みください。

qiita.com

保育園からその後の報告をは12月末には聞いており、上記の記事が思った以上に反響があったので、その後どうなったかは書こうと思いいたのですが、年末に家族が次々と倒れ家庭内パンデミックなどがあり書く時間がなくだいぶ時間が開いてしまいました。

なお、先に述べておくと、今回はインシデントレポートとそれに対する対策、フィードバックがメインなので、Chaos Engineeringを期待された方には申し訳ありません。

Chaos Engineeringの原則的には「既知の問題」(今回だと子供が避難訓練からの帰りに行方不明になった)があるならそっちを解決するのが優先で、「新しい問題」(避難訓練のマニュアル不備等)を発見したければChaos Engineeringを導入するのが良いとされているので、今回は既知の問題対応ということもあり再提案は見送りました。

もしChaos Engineeringについてもう少し知りたいということであれば、昨年拙文ながら2本ほど資料を作成しているので、そちらをご覧いただけると参考になるかもしれません。

speakerdeck.com

speakerdeck.com

正確な事故の経緯

前回事故の経緯は聞いたものの、正確なタイムラインを伝えられていなかったのでそこの説明から始まりました。 タイムラインとしては以下のような流れだったとのこと。

  1. 避難訓練開始
  2. マンション屋上への避難訓練完了、全員の無事を確認。
  3. アプリで避難訓練終了を保護者に通知
  4. マンション屋上より階段を使って園児を降ろし帰園
  5. 点呼の結果、園児が1名(うちの子)足りないインシデント発覚
  6. 先生2名がマンションに戻る
  7. マンション管理人が保護してくれていたのでお礼を言って帰園
  8. 保育園の経営母体&市にインシデントを報告
  9. 保護者(うちの妻)に園長から連絡
  10. 保育園内のスタッフで話し合い事故の状況や原因、改善点について議論
  11. 保護者へ謝罪と説明

4の最中にうちの子供は階段途中の廊下方面に歩いていってしまったと思われるが、先生はそれを見つけることができなかったとのこと(本人は説明できないし誰も現場を見てないのであくまで推測)。 ここからうちの子のがいないと気づきマンションに戻って発見するまでは約15分程度だったとのことですが、靴が脱げて泣きながら歩いてるうちの子をマンション管理人の方が見つけてくれていなかったらと思うと正直ゾッとしました。

また、7のあと妻に連絡が行くまでに30分ほど時間が空いていたのですが、不正確な情報で混乱させないためになるべく正確な話をするために情報をまとめていたとのことなので、まあそういうものかと納得。

事故の原因(保育園側の考察)

前回の話し合いでも聞いていた内容とほとんど重複していたものの、インシデントの詳細レポートが出てきたのでもう少し細かい原因なども出てきました。

  • 最初に泣いた子の対応に保育士の人数を割いたので、最終グループは保育士一人に対して7名の園児(2歳前後)になり全員を目視で管理できなかった。
  • 誰がどの子を連れて降りたか確認をしていなかった
  • スタッフの間で「誰かが手伝いに来てくれるはず」という思い込みで移動を始めてしまった
  • マンションの階段を降りてから園に戻る前に点呼を怠った
  • マンション屋上に園児が残っていないことを確認していなかった
  • 避難訓練のマニュアルに避難訓練完了までは記載していたが帰園については記載がなく、各自の判断で動いていた

今後の対策(案)

保育園からは前回の話し合いの際に我々から言われたコメントなども含め、再度スタッフ全員で話し合い以下の対策を検討していただきました。

  • 避難訓練のマニュアルに帰園までのマニュアルを追記
  • 保育士一人あたりで対応する園児の数を設定
  • 点呼のタイミングをマニュアルに記載し、点呼の際は保育士2名以上で確認をする
  • 屋上から園児を連れて降りる際に、連れて降りる園児の名前を声に出して降りる
  • 責任者2名がマンション屋上に園児が残っていないことを確認

対策案を聞いての提案

保育士一人あたりに設定した対応する園児の数について

前回のインシデント後の説明の際にも園長からは「避難訓練をするにあたり十分な数のスタッフを配置していた」という話をされていたのですが、 よく考えてみると避難訓練のために十分なスタッフを用意し、うまく行ったところで、本当に地震などの災害があった際に十分なスタッフがいない場合はどうするのかが気になったので質問してみました。

これは前回も「避難訓練をこなすことが目的になっていた」という話をされたのですが、災害発生時に訓練どおりには行きませんでしたでは済まない話なので、スタッフが少ない場合でも避難ができるようになっているのか再度確認と検討をお願いしました。

点呼のタイミングをマニュアルに記載し、点呼の際は保育士2名以上で確認をする

マニュアルに点呼のタイミングを記載したのはとてもよかったのですが、点呼の担当から「以上」の部分を消して担当を2名なら2名にして担当者をはっきり割り当てたほうが良いのではとお伝えしました。 というのも、学術的にもダブルチェック以上はあまり効果をなさないどころか、以下のTweetのように「誰かがやっただろう」や「他の人がやったから大丈夫だろう」と場合によってはチェックが形骸化してしまう恐れがあるので、やるのであれば担当者を予め決めておき、その2名ないしは3名に責任を持って確認させたほうがよいのではという話をしました。

imamura-net.com

ダブルチェックの有効性を再考する - 厚生労働省 (PDF)

屋上から園児を連れて降りる際に、連れて降りる園児の名前を声に出して降りる

これについてはなんかもっといい解決策はないかと思いましたが、思いつかなかったのでとりあえず現状の案に対するコメントをしました。

マンション屋上から連れて降りる園児の名前を言うだけでなく、下からそれを確認してもらったほうが良いのではないかという話をしました。コミュニケーションでは「私は言った」に対して「私は知らない・言われていない・聞いていない」というミスコミュニケーションが起こりがちです。そのため、声を出して連れて行ったものの、下で園児を受け取る側が正解を把握できていない可能性があり、園児がいなくなった場合に気づくのに遅れる可能性があるのではという話をしました。

これについてはマニュアルにも何らかの確認(下から返事 or 復唱)が盛り込まれるようになるそうです。

その他

改善された避難訓練のマニュアル自体は本当によく(多分Excelで)できていて感心したのですが、やはり前回Chaos Engineeringを提案したように想定外の事態やうまく行かないケースについては検討がされておらず「ミスなくやればこの通りにできるはず!」という内容になっていました。

例えば、「地震が収まった後全員が園庭にて確認された後、マンション屋上への避難を開始する」という記載があったのですが、最悪のケースとして園庭に集合した段階で園児が1名見当たらない場合どうするかなどの記載はなく

  • いない園児を待つのか?待たずに避難するのか?
  • 待つのならどれぐらい待つのか?
  • いない園児は探しに行くのか?
  • 探しに行くのであれば誰が探しに行くのか?
  • etc...

実際に起きうる(というか実際1名いなくなった)事例に対しての検討が抜け落ちているので、そのあたりはもう一度良く考えてもらいたいという話をしました。

何度だって言いたいのですが、1度あることは何度でもあるのです。(きかんしゃトーマスだってそう言ってます。)

www.youtube.com

また、マニュアルにはなくてもいいのですが、なぜ屋上からの降りる宣言、ダブルチェックなどの記載があるのかについて、「よくわからないけど昔からそうだった」と理由を考えずにこなすだけにならないためにも、その理由となった今回のインシデントについてどこかに書き残しておいて共有してもらいたい旨を伝えました。

しかし、マニュアル自体は上記でも述べているように本当に先生方がしっかり作ってくれているので感心たので、「これを他の保護者の方にも開示してみませんか?」と伝えてみました。

私は先生方がここまでしっかりマニュアルを作って避難訓練をしていいることを知らなかったので、親としては先生方が子どもたちの避難訓練のためにここまで頑張ってくれていることについては嬉しく思ったので、他の保護者の方にも先生方の頑張りを知っていただけたらなと思った次第です。また、先生方はあくまで保育の専門家であり、避難訓練の専門家ではないので、保護者の中には警察官や消防官自衛官などそっち方面の専門家がいる可能性も考えると、このマニュアルをオープンにして、保護者からも意見をもらったほうが良いものができるのではと思ったからです。(クソリプが来る可能性もあるけどそれは対応しなくてもいい旨は合わせて伝えました)

マニュアルの公開についても検討していただくということなので、もし避難訓練のマニュアルが保育園から共有される日が来たら多分同じ保育園だと思ってください。

まとめ

避難訓練でうちの子が行方不明になるというインシデントを受け、対応策にChaos Engineeringを提案したものの採用はされませんでしたw

しかしながら、インシデントをきっかけに保育園と話し合いをする中で避難訓練のマニュアルのアップデートや先生方の活動の一端を知り、その改善などを提案することができました。

ちなみにこの記事を書く直前に、保育園の連絡アプリから「避難訓練をしました」という通知が来てドキドキしましたが、妻からも保育園からも連絡がないので無事に避難訓練は終えられたようでホッとしました。

その後、保育園にお迎えに行ったら先生がすごくおどおどした感じで「今日は特に連絡はありませんので・・・」って言われて苦笑いしました。

なお、上の子に「避難訓練どうだった?なんかいつもと違った?」と聞いてみたのですが、「いつもどおりだったよ」と言われたので、子供目線ではいつもどおりだったみたいですが、きっと先生方は頑張ってくれたと思います。

余談

なお、前回の記事を書いたあと妻が友達に今回のインシデントと私の提案について話したところ「え、うちの中学校は避難訓練のときに生徒が一人先生に拉致されて、それを気付けるかってやられてたよ」という話を聞き、私がその場の思いつきで適当に提案したものの、実際にやってる所あるのかと驚きました。(2x年前の話なので今もやってるかは不明です)

また、先日保育園から保護者あてに「使っていない抱っこひもがあればお譲りいただけませんか」というアナウンスがあり、多分避難訓練で乳児クラスの移動で使うんだろうなという気がしたので、我が家にあった使っていないエルゴを寄贈させていただきました。